陽だまりの子

Child In The Sun

カラス

光なく影なく人の声もなく
耳に届くは風と波の激しくも懐かしい声
筆の跡も生々しい空気の流れと
頑なにそれを溶かそうと景色にむしゃぶりつく雨粒

名前も知らないこの土地で
私は行く場所も知らないのに
雨風にされるがまま茫然として
だが安心しているのはなぜだろう

闇がアスファルトに身を横たえ
ゆっくり私を差し招く

誰もいないこの道を
誰かが敷いたこの道を
ただお前一人のものにしてやろう

潮風にざらつく肌と
濡れて頬に貼りつく黒髪
名前も知らないこの土地で
行く場所も知らないのに
私はこの闇に選ばれた

誰もいないこの道が
誰も私を追わないこの道が
ただ私一人のものになる

光なく影なく人の声なく
青ざめた額でただ一人の夜
闇がアスファルトに身を横たえ
ゆっくり私を差し招く

証立て

すべての命に終わりがないこと
置き換えられもしないこと
それだけが私の救い

私は実に無限の時間に生きて
自分の終わりも知らずに死ぬだろう
死が命の終わりでないことを知っているから
恐怖も知らずに死ぬだろう
真実にたどりつくことがないことを
それ自身が証明している終わりなき生を
私は生きる
私は生きている

マグノリア

花開くその日に
雨降れば
水が池となって
花のうちに虹がかかるのを
小鳥だけが知っている
太陽はそれを惜しみながら
自分の手を伸ばし
花より水をそっと掬い取る
次の生のために

私を覆う闇は
私だけのもの
ちょうど私と同じ大きさで
影のように離れずにいる

私の目から光を
私の両手から水を
私の耳から音を
闇はそっと取り上げる
それが彼の義務なのだ

闇は私自身と同じ大きさで
影のように離れずにいる
抜け出す方法など誰も知らない
闇は私自身にあまりに近い

人生の正邪

真心と良心を失って
足の向くまま闇夜を彷徨うときも
人生は正しいのだ
人が土を踏みしめ歩く限り
大地は無限に生命を創造する
私たちの足音のリズムに合わせ
だから
人生は正しいのだ

桃色の夢

午前四時
冷蔵庫から
君の
桃を
失敬

舌の上で
とろける

君の
吐息の
においが
する

午前四時
君は
眠っている
薄紅(うすくれない)の
目蓋の下で
桃を
食べる
夢を
見ながら