陽だまりの子

Child In The Sun

緑の光

日月とともに蔓を伸ばすイラクサの中で
鈍るだけの刃で
鳥よりもなお
獣よりも激しく
自由への渇きを訴えて
緑の光の中で
銀の刃を手に
人間が自らの手で道を求めている

独立への飢えが
ひたぶるに彼を駆り立てる
鈍らの刃と生命の涯は
理由ではない
本能で彼はイラクサにつかみかかる
鳥よりもなお
獣よりも激しく
緑の光の中で

填め込みのガラス

填め込みの曇ったガラスから
春の陽光が差し込んで
ソファの上に規則正しく並んだ
患者を映す
お互いの目に

濁った光の中で
お互いを監視しているのだ
この戦場から誰も逃げ出さないように
逃亡は死だ
私たちは生き残るのだ戦いの末に
死を望む者はいない

敵が誰なのかも知らないまま
塹壕で対峙しているよう
身をこごめ息を殺している
春の陽光の下でも
患者は微笑むことはない
喜びにむせび泣くことも

彼らの疲労に濁った瞳は
ちょうど古びたガラスのよう
潤んだ光を映している
填め込みの眼球に

鐘楼

高層ビルの最上階に
誰も忘れた鐘楼がある
朝な夕なに鐘は鳴るが
人にその音は響かぬ
鐘はもう人のものではないので

隣の教会の中では
頭に霜を置いた牧師が
しきたりに則って婚礼を進める

今、私の前で結婚するのは
雨粒と霧
朝靄と風
ひとところにはおられぬ者たちが
この鐘楼の中では
自然のままに夫婦となる

立ち上る朝日に鐘楼は照らされ
人の目にもその姿がかいま見える
人はそれを蜃気楼と幻と言い
誰も鐘楼に上がろうとはしない
だが鐘楼はそこにあるのだ
朝靄と風
雨粒と霧に守られて
その間を漂うすべての者のために
鐘は鳴る
空と人の間の僅かな隙間に

赤い光

春の夜明けに目覚めるのは
希望だけではない
絶望も
ともに目を覚ます

瞳を開けて現実を
穴の開くほど見つめれば
必定
空想の世界にトンネルが開く

私には翼がない
だから天使ではない
私には角がない
だから悪魔でもない
私は一人の人間で現実と夢の狭間に生きる
眠りは
それを行き来するトンネルだ

現実の希望も絶望も
トンネルの水銀灯となって
私を夢へといざなう
赤い光

それは夜明けの空によく似ている