読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

陽だまりの子

Child In The Sun

五色の山 - 西の金の山 第4話

小説

 西の金山には一つの鏡が埋まっている。
 その鏡はその山の麓に住まいする類という美しい青年の持ち物であった。その鏡は差し渡し八寸、中央のつまみは麒麟が蹲った形をしており、つまみの四方に亀・龍・鳳・虎が、それぞれの方角に鋳出され、その外側にはさらに八卦の形があり、その外側には十二支をそれぞれの方角において、動物の形で鋳出されている。そのまた外側には二十四の文字があって、周囲を取り巻いているが、その字体は隷書の様で、一点一画も欠けてはいないが、字書に見られる文字ではない。そして、その鏡は珍しく金でできていた。
 鏡を日に向けて照らしてみると、その黄金の反射の中に裏側の文字や絵が黒々と浮かんで、毛ほどの筋さえ鮮やかに見える。取り上げて叩けば、清らかな音色が静かに尾を引いて、一日経った後にようやく消えるのであった。
 また、このようなこともあった。日食があり、太陽が次第に暗くなっていくのに気がついて、手元を照らそうとその鏡を出してみると、鏡もやはり薄暗く、輝きを失っていた。この鏡は日月の光の霊妙さにあわせて作ってあるのだろう。それでなければ、太陽が輝きを失うとともに光を失うはずはない。やがて鏡が光を放ち始めると、太陽も次第に明るくなってきた。太陽が元通りになったときには、鏡も元の澄み切った明るさに返った。それから後は、日月の食があるたびに、鏡の面も暗くなった。
 類はその鏡を先祖伝来のものだと言って、毎日金の油を塗り、真珠の粉で磨いて大事にしていた。しかし、彼に親兄弟があったという話は誰も聞いたことがなかった。
 ある日、ふとしたことでその鏡にひびが入り、類が余りに嘆き悲しむので、村人がどうしたことかと尋ねたところ類は涙の間にこう応えた。
「あの鏡は私の命でございます。私はあの鏡より生まれ、あの鏡を頼みに日々を送っておりました。あの鏡なくば私の命も長くはないでしょう」
 その言葉通りに類は数日のうちに死んでしまった。類の死と同時に風が起こり、雷が鳴り響いて大雨が降り始め、雨がやんだ頃、大地はすっかり流され、四方は海と化していた。空に太陽はなく月はなく、茫漠たる雲の波が空を多い、世界から生ある者はそれきり消えた。
 今、西の彼方に聳え立つ遥かな山にはその鏡が埋まっていると言われている。類の死を悼んで村人たちが墳墓をこしらえ、遺体とともにその鏡を埋めたのだ。太陽がその山の向こうに沈むとき、その光が真円を描き、冷たい風のうちにあの鏡の涼やかな音が聞こえるという。