陽だまりの子

Child In The Sun

037. 四季

少しずつ黒ずんでいく葉を、私はどうすることもできない。水が足りないのか、肥料が足りないのか、いろいろ試してみたが、この鉢だけは日々力を失っていくばかり。この前は株が二つ枯れて、土の上に残った茎を引っ張ってみたところ、腐った茶色の根がするりと抜けた。あとに残った株は二つ。鉢が随分広くなった。

私は毎日霧吹きと埃取りを手に社内を回る。社内の植物の世話が私に課せられた数少ない業務のひとつだからだ。枯れた葉があればそれを取って、反り返った葉があれば少し水をやり、新芽の季節の前には必ず肥料をやる。埃で葉が白く汚れていれば、霧吹きで水を拭いたり、埃取りで軽く拭いてやったりもする。植物は何も語らない。私が話しかける声も彼らに伝わらないだろう。私は目で彼らの声を聞いて、聞き取れるかすかな言葉に答えることしかできない。この日の射さない、締め切ったオフィスの中で、私の世話する鉢は六つ。この鉢が枯れたら五つになる。私はさびしい。「枯れないで」と呼びかけても、返事はない。いたずらに肥料をやるのも水をやるのも、植物には毒なので、最近はもっぱら霧吹きと埃取りを手に、その鉢の前を右往左往するだけだ。

その私をかわいそうだと思うのか、社内の人間に多く声をかけられる。
「枯れちゃうね」
「枯れちゃうんでしょうか」
私は枯れてほしくない。
「こんな暗いオフィスの中じゃ、どんな植物でも枯れちゃうんだよ」
確かに移転祝いに貰った胡蝶蘭も、前のオフィスから持ってきた鉢も、私が世話を始める前に一年と持たず、枯れてしまっていた。今は鉢だけが倉庫に残っている。土は燃えないゴミで捨てたそうだ。
「この鉢は丈夫だから、まだ持ちますよ」
枯れないとは言えない。
「きちんと世話さえすれば」
「そうかな」
違う。私がこうやって世話をしても、この鉢はどんどん力を失っていく。もう今年の冬は越せまい。土はしっとりと潤っていても、葉は萎びて先から枯れていく。そのうち、この茎も落ちるだろう。そして次々茎が落ちて、最後には株だけになるんだ。
「オフィスの中だけ、春でもいけないんですね」
「植物にも人間と同じようにカレンダーがあって、どんなに空気が暖かくて土が湿っていても、今が冬だときちんと知っているのかもしれない」
そうなの、と私はまた答えのない問いを発する。日光もない、雨も降らない、冷たい風も温かい風も、熱い空気にもさらされない。人間とわずかな機械にとっては快適なこの空間は時間と季節を失っている。だが、それを植物に強いることはもともと無理なことだったのだろうか。

私は手にしていた霧吹きを床に置いた。今度は埃を拭く。誰も埃を拭いてなんて言っていない。でも、私はこれが植物によいことだと信じているから、埃を拭くんだ。

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