陽だまりの子

Child In The Sun

五色の山 - 西の金の山 第5話

 この金の山はそのまま金塊と言ってよいほどの豊かな鉱脈に恵まれていた。露天掘りでそのまま掘り出す黄金で町は富み栄え、絢爛と狂奔のうちに繁栄の日々が続いた。
 絶壁の上に類は立っている。飛び降りるのだと言う。彼は先祖代々築き上げた富を今夜、博打で全て失い、頼みにしていた鉱脈の権利書までも奪い取られ、身一つとなってしまった。この町で鉱脈の権利書を持たぬ者は、この町に住まいすることができぬ。類はそして死ぬと言う。この町を出ての生活など考えられぬと類は言う。
 類はその類い稀な美貌で近隣に知られていた。漆黒の髪、白銀の額、びいどろの青い瞳、美の豊穣がここにあった。その類を失うことを誰も望まぬ。美しき類亡くしてはこの金山の繁栄に翳りがさす。それは誰も望まなかった。
 絶壁の上に類は立っている。類の説得に当たるのは老若男女、身分も様々、そして誰もが類を愛していた。数時間に及ぶ説得の末、類はようやく踵を返し、皆の元へ歩き始めた。その瞬間、類は口の端から泡を吹き、四肢を痙攣させるとそのまま横様に倒れ、谷底へ転がり落ちていった。
 過剰な繁栄とそして暗黒が類の心から平穏を奪い、身体から安寧を取り去った。再びその狂乱のうちへ戻らんとしたとき、神の手が働き、癲癇を起こした類は、奈落の底、黄金に輝く土中に吸い込まれていった。
 現在、地上の金山は既に掘り尽くされ、後には岩石を敷き詰めた広大な平原が広がっている。しかし、鉱脈は尽きることなくこの土の下では今も幾千もの鑿が振るわれ、次々と金塊が運び出されている。類の落ちたあの地も今はない。類の眠る土中も安らかではない。西の金山。