陽だまりの子

Child In The Sun

五色の山 - 西の金の山 第2話

 金山の麓の国に類という青年があった。大層な美貌であったが、いつもその黒髪を両肩に捌き、長い裳裾をつけ、山野を徘徊していたために寄る者はなかった。
 ある日、類が山に入り薬草を採っていると、村人の一群と出会った。彼らも薬草を採りにこの山に入ったのだと言う。その中の一人が類のいっぱいの薬籠に目を留め、軽い妬みからその籠を類の腕から叩き落とした。類は腹を立てたが、何も言わず、じっと俯いて黙っていた。
 山の天気は変わりやすい。突然、大雨が降り出した。目の前に古い堂があったので、村人たちはそこに駆け込んだ。しかし、類は雨の中ずぶ濡れになりながら一人、けして堂内に入ろうとはしない。村人が訊けば、その堂はじきに崩れるので自分は入らぬのだと言う。村人たちは恐れをなし、早々にその堂を出たが、中の一人、類の薬草籠を叩き落した者、彼のみは日頃から類を侮るところ甚だしかったので、類の言を信ぜず、頑としてその堂を出ようとはしなかった。
 深更を過ぎて、類と村人たちが木々の僅かな陰に寄って濡れながら休んでいると、突如、轟音とともに堂の後ろの崖が崩れ落ち、忽ちに堂を埋めてしまった。村人たちは驚き、その場に走り寄ると、夥しい土塊の中から声が聞こえる。土で扉は塞がっているが、堂は潰れず、村人はまだ中で生きているらしい。頻りに助けてくれと繰り返すので、残った村人が類に助けを求めた。類が何やら印を結び文言を唱えると、一閃雷鳴が轟き、その扉に落ちた。扉はその上の土とともに飛散し、村人はそこから這い出ることができたが、雷の強い光と音で聾唖になり、そのまま余生を虚しく送ったという。