陽だまりの子

Child In The Sun

五色の山 - 西の金の山 第1話

 まだ天と地が分かれて間もない頃、空には太陽なく月なく、また星もなく、ただ大地から発せられる茫漠とした金色の光が虚空を満たしていた。
 その地を耕す類という少年がいた。彼に両親はなく、その素性も判然としない。類は一人、村外れの藁葺の小屋に住まいして、日々黙々と田畑を耕していた。肥えた土には米と麦。痩せた土地には粟と稗と豆を蒔き、四季のないこの世界でその成長を頼みに時を過ごしていた。
 類はまだ十三。彼の双眸は青く美しく、しなやかに伸びた四肢は確かに男のそれだったが、肌はまだ絹のように柔らかく温かで、白く美しかった。
 ある日、類がいつものように鋤鍬を手に畑を耕していると、一陣の風が起こり、その中から羽衣を着た若い男が現れた。旋風が類を取り囲み、砂塵を巻き上げる。忽ちに類は昏倒し、目覚めると自分が孕んでいることに気がついた。月が満ち、臨月となると再びその羽衣の若者が現れ、懐から取り出した刃で一閃、類の下腹を切りつけた。類の腹からは一匹の青い蛇が生まれ出で、若者はその蛇を伴い消えた。

 青き蛇を生んだ類は、宦官となり皇帝に召され近くに仕えた。数十年の時を経てもその美しさは衰えず、皇帝に拝跪する者はそれを神仙の血を受けたからだと言い、蔑みながらも畏れた。皇帝が死すと、後宮の者たちは揃って類を追い出しにかかり、追い出された類は暫く山野を彷徨っていたが、ある夜、叢から這いずり出た青き大蛇が類を一飲みにしてしまうと、そのままするすると叢に消えた。

 それから数十年の後に、驟雨の中、雷鳴とともにその山から青き龍が天に昇り、その後には広大な湖が残った。今、西の金山の山頂近くに僅かに残る、青く澄んだ小さな池はその名残である。