陽だまりの子

Child In The Sun

五色の山 - 南の赤い山 第5話

 お庄屋の葬式は盛大なものだった。その葬式に、このお縫もいた。
 大きくなった。神主と目が合うと、お縫は嬉しそうに笑う。ただ、毎日笑って花を手折っているだけの、何の害もない一人の娘をこうして死なせねばならぬのか。思わず神主の目から涙が溢れた。
 閏年の度にこうしてお庄屋と二人、神主は馬を牽いて火口へ向かった。その頃はまだ山も静かで、月と星の下で木の葉は妖しく煌めき、ひんやりと心地よい風が二人の額の髪を弄った。二人とも一言も口を利かず、縛められた馬上の娘も何も言わなかった。
 火口に娘を落とし、二人は歩いて山を降りた。山を降りて、次第に白む東の空を眺めていると、隣でお庄屋が朝日に向かって合掌しているのが目に入った。
「西方浄土は逆だぞ」
ふふふ、とお庄屋は笑って歩き出した。
 贄になった娘たちも生きていれば誰かと夫婦になり、子を残したのかもしれない。だが、その子が娘なればその娘が、その娘が生き延びれば、そのまた娘がいつか贄になる。生まれたのが息子であっても同じことだ。この村に生まれたときから、この世に女として生まれついたそのときから、その恐怖は死ぬまで、贄として人間として死すまでついて回る。
「いつまで登るんだ」
若衆の一人の声で、はっと我に返る。
「ああ、もう少しだ。そのうち火口が見える。足元に気をつけろ」
 百人以上の娘を穴に落として、神主の一族は生きてきた。そうしなければ神罰に当たり生き延びることは叶わなかったろう。
 火口に着く。
 滝のように流れ落ちる汗を拭おうともせず、神主は最後の幣を払う。口に唱える祝詞も地鳴りに掻き消され途切れがちになる。若衆の手からお縫は花束を受け取ると、笑ってその中に顔を埋め、思うさまその芳しい花弁を嗅いだ。硫黄の臭い。
 お縫を後ろ手に縛り上げ、しっかりと馬に結びつける。痛い、とお縫が顔をしかめる。横にいた若衆の一人が髪についた灰を払ってやる。地鳴りが聞こえる。山神の怒号。冷えて固まった溶岩が、その度にびりびりと震える。
 神主の唱える祝詞が静かに聞こえてくる。空に漂う灰の隙間から、僅かに、ほんの僅かに星が見える。足元に広がる底無しの淵は、静かに娘を待っている。
 お縫、と神主は呼んだ。
「自分の名前すら分からぬお前が、この先も並の一人の娘として幸せを得ることはまず叶うまい。しかし、少なくとも、山神はお前の美しい、優しい心を認めて下さるだろうよ」
 馬は、二三歩よろめくと高く嘶いた。
 娘と白馬を飲み込んで、溶岩はいったんうねると、轟音とともに姿を消し、後には静かな火口だけが残った。

 灰はやみ、山は元の静かな山に戻った。
 しかし六年に一人、娘が姿を消す。
 いつしかその村から若い娘は姿を消し、村は廃れた。