陽だまりの子

Child In The Sun

五色の山 - 南の赤い山 第3話

 お縫は、手を引かれ笑いながらやってきた。その後ろから白い馬が牽かれてくる。
 境内には村の若衆が満ち満ちている。言葉を発するものは誰もいない。降りかかる灰を払おうともせず、熱っぽい眼差しで正殿をじっと見つめている。
 正殿の中では、数人の巫女と神主によって最後の祓いが行われている。髪を捌いて、服を着せ替られたお縫は覚束ない足元を支えられて、白い馬に乗せられる。気違いとは言え縛めるのはあまりに酷い、と火口まではそのまま連れて行くことにした。
 最前、お縫の母は泣き叫んで神主の袖に取り縋った。
「お前様は父を亡くし、正気を失うたこの子から命まで奪おうというのか」
「村のためじゃ。村を救うには、こうするしか」
「人でなし!」
母の手には神主の片袖が残った。
 ぽくぽくと軽い音を立てて馬の蹄は地を弾く。灰に曇る空は暗い。娘を見送るある者は歓喜に手を打ち振り、ある者は声を上げて歌う。それに答えて娘は馬上から笑いかける。
 道など疾うに消えた山の斜面を、少しでも歩き易い場所を探しながら、じりじりと行列は山を這い登る。立ち上る水蒸気、それに灰が混じった熱風が若衆の面に吹きつける。地熱に足の裏は焼けるようだ。溶岩流の流れた後は燃え残った樹木と、その後に降った雨粒の跡が痘痕のように残っている。