陽だまりの子

Child In The Sun

五色の山 - 南の赤い山 第1話

 ちらちらと灰色の破片が空から落ちてくる度に、農夫たちは溜息をつく。
「またじゃ、今年もまた駄目じゃ」
「いっそのこと、この地を捨てて……」
「何を言う、先祖伝来のこの地を捨てると言うのか」
みるみるうちに日は陰り、姿を消す。
「そうじゃ、この灰も一月もすれば止む」
「だが、これで今年の作物は終わりだ。そして、また灰は降る。今年で終わり、今年で終わりと言いながら何年経ったのだ。俺はもう我慢できん」
彼らの視線の先には、赤く熾え盛る山。
 眇めの神主はそれぞれの訴えに一々頷き、すぅ、と息を吸い込んだ。
「山の火を鎮める手はある」
血相を変えて詰め寄る村の者を制して、神主は続ける。
「あの山が火を噴くようになったのは、ここ十年程のことだ」
 この村の南に屹立する、あの山も昔はごく穏やかな山だった。濃紺の葉を絶やさぬ照葉樹が山麓を埋め尽くし、はるか上空を飛ぶ鳥の声が鈴のように葉の間から零れ落ちた。季節の木の実、禽獣、薪、村人は様々な物を求めて山に入る。山から流れる清流は途切れることなく、広い田畑を潤し、豊かな恵みを齎した。人は山に感謝し、毎年の祭りを欠かさなかった。
「祭りならまだやっている!」
違うのじゃ、と神主は換骨の突き出た頬を撫ぜると、口をすぼめて茶を啜った。まだ、井戸水は無事だった。
「この神社の秘伝じゃ」
 閏の年の夏至の夜、妙齢の娘を一人選んで山神に差し出す。泣き叫ぶ娘を薬で眠らせ、白馬に縛りつけ、生きたまま火口に投げ落とす。火口の底には、煮え滾る溶岩の淵があり、その畔で山神が猛る自らをその娘で鎮めるのだ。
「娘は美しければ美しいほどいい」
唇の立てるぬちゃぬちゃという音が、言葉を遮る。
「この事はわしとお庄屋しか知らぬこと。十二年前、お庄屋が死んでからは当の娘の都合がつかず、生贄は絶えておったのだ」
誰かがごくり、と生唾を飲む音が聞こえる。
「さすれば、また若い娘を捧げればこの灰も止むと言うのか」
「じゃろうな」