陽だまりの子

Child In The Sun

089. 泡(1)

私は不安のさざめきの中に自分を見出す。不安は海のように私の体の上を覆ってしまっていて、私の体は波間の底にわずかに見えるだけだ。私の体の形も、波の打ち寄せる影に頼って幾許かその様子を推し測ることができるのみ。

不安は私の体を彫刻する。不安の波の底で、私の体は原石から削り出され、次第にそのトルソーを顕わにしてゆく。私の体は、不安からできているのではない。砂と小石の詰まった岩石から、私の体はできあがっていく。波は冷たかったり、あたたかだったり、幾重にも過ぎるそのベールの下で、私の体は眠っている。不安の波は螺旋を描いて私の体の上を縦断していく。波は様々なものを運んでくる。人間の喜びや悲しみや、体の知らない外界の世界のニュース、波そのものが津波となって大きく陸地に迫ることもある。波は私の体に迫りながらも、結局は私の体を乗り越えて過ぎ去っていく。

いつか波が引いて、できあがった私の体が空の下に現れる日が来るのだろうか。私の体はその日も知らず、波のうちに眠っている。不安は私の体を彫刻する。その波が元の岩を粉々に砕き、何もかもが泡のうちに消えてしまう日が来るかもしれないのに。私の目は空を見ることができるのだろうか。私の体ができあがり、完全な人間として陸地を歩く日が、本当に来るのだろうか。