陽だまりの子

Child In The Sun

088. 手さぐり

冬の雨に濡れて帰ってきた私は、ハイヒールを脱ぐとそのまま廊下を歩いて、ベッドに倒れこんだ。自分の香水の匂いが、雨のせいで髪と一緒に顔にまとわりつく。私はもう、それを払いのける力もない。指先から雨粒と一緒に、力という力が滴り落ちていく。ストッキングを片足だけ脱いで、そのままだ。片足はまだ濡れた繊維の中だ。今朝、目覚めたときの自分のぬくもりを探して、裸足の爪先でシーツを探る。ベッドまで冷たい。ああ、私には今、何の力も残っていない。

目を閉じる。
(私はソファで温めたワインを飲んでいる。)
冷え切った指輪を抜き取る。
(目の前のテレビではコメディアンが戦争の話をしている。観客は一様にピエロのように笑っている。)
冷たい指先で頬に張りついた髪を払う。
(私もテレビの中の観客と一緒に笑う。)
ベッドの端からタオルケットと羽根布団を引き上げる。
(ゆっくりと膝の上の雑誌を広げ、南アジアの鮮やかな写真に目を細める私。部屋にも明かりが煌々と灯り、影は自分の後ろにしかない。)

ああ、どちらが夢なのだろう。私は裸足の爪先で、自分のストッキングを引き裂いて今日からやっと解放される。

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