陽だまりの子

Child In The Sun

086. 距離感

電車の窓に映る自分の影が二重になっていた。それまで自分の影をじっと見ていたのに、二重になったことに気づかなかった。コンタクトがずれているのかと思った。違った。電車の扉が開いて、扉の近くのガラスに扉のガラスが重なって二重になったのだ。それに気づいて二秒後、音を立てて扉が閉まった。

私の目には、モノが二重に映る。自分の中には自分がもう一人いて、卵の黄身と殻のようにけして触れ合わない。間にある自分の肉体のために、外界の自分と核の自分はけして触れ合わない。外界の自分が見る世界と、核の自分。自分に文章を書かせるのはどちらだろう。自分の肉体を動かしているのはどちらだろう。

外の人は、私のことを二重ガラスに映った影だと思うに違いない。実体は影の向かいにある。