陽だまりの子

Child In The Sun

085. 天井

 誰もいない天井には、私の寝息だけが漂っている。私は夢と現実の混濁した意識のうちで、もうひとつの現実を見ていた。
 金属の固いベッドの上で、私は目を閉じて寝息を吐いている。春暁の部屋には、カーテンを通して緑色の光が射しこみ、少しずつ温度が上がっていく。私は、グレーのシーツを体に巻きつけ、寝息を吐いている。私はその自分の姿を上から眺めている。
 ベッドの私の口からするすると伸びた白い糸は、煙よりずっと緩やかに上昇するが、天井で押しとどめられ、互いに絡まりあい、大きな繭を作っている。もう一人の私は、その繭の中でうずくまり、眠っている。私は繭の中にいる。意識のあるのは、繭の中の私だ。
 繭は少しずつ大きくなる。私の視界は次第に白い糸で遮られる。壁は厚くなる。停滞する天井。繭の中は暖かい。私は壁に手をついて、呆然としているが、いつしかまどろみ眠ってしまった。繭の中は白く、暖かい。
 夢だったのだろうか。私の体ベッドの隣には、夢にはなかった装丁の赤い本がつみあがっていた。こちらが夢だろうか。私は自分の口に手をやった。糸のような自分の黒髪が、唾液に固まって、じっとりと唇にこびりついていた。

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