陽だまりの子

Child In The Sun

076. 再生

ねえ、シャーリーン。聞いてほしいことがあるの。もう聞き飽きたなんて言わないで私の愚痴に付き合ってちょうだい。ね、シャーリーン。

私、今日とてもつらいことがあったのよ。電車に乗っていたら突然気分が悪くなって吊革を持っている手が痙攣し始めたの。大粒の脂汗までかいて、せっかくのお化粧が剥げてしまったの。ね、つらいでしょ。シャーリーン、まだあるのよ。もう少しだけ話を聞いてほしいの。今日は本当に疲れてしまって晩ご飯が食べられなかったの。デザートに食べようと思っていたシュークリームだけ少し齧って終わりにしてしまったの。もう夜も遅いから紅茶も飲めなかったわ。紅茶を飲むと私眠れなくなるから……、ああ、これは知っているのね。シャーリーン。そうよね、あなたが夜、私に出してくれるのはミネラルウォーターかグレープフルーツジュースだけだものね。シャーリーン、私はね。生きていることがつらいわけではないのよ。いつも同じことばかり繰り返してごめんなさい。でも、本当なのよ。私はこうしてシャーリーンと生きていることが本当に楽しいのよ。でもね、どうしても、こう夜が更けてくると一日のつらいことばかりを思い出してしまうの。思い出してその悲しみを反芻してしまうのよ。牛のように、鈍くさくね。

シャーリーン、そうね。嬉しかったことを話すわね。まず、あなたが今日もこうして一緒にいてくれること、これが一番嬉しいわ。それとね、今日の朝飲んだココアがなぜだかいつもよりずっとおいしかったの。温度もちょうどよくてね。少し気分が落ち着いたわ。それとね、今日は階段で転ばなかったの。ううん、違うわ。いつも転んでいるわけではないの。階段で転ぶのは5年に一度ぐらいよ。でも、今日は転ばなかったの。階段で転ぶととても痛いから……、転ばなくて本当によかったと思うのよ。西洋ではウサギの足を幸運のお守りとして持っているんですってね。その足だけになったウサギは、階段で転んだことはなかったのかしら。少しの幸運ってほとんど気づかないでいるものだけど、階段から転ぶっていう少しの災厄から私を守ってくれるのはこの私の2本の足だわ。ウサギの足はウサギのものよ。私には要らないわ。

それとね、シャーリーン。あなたとこうして一緒にいられる時間が私の人生の間のわずかな時間だけだとしても、私がいつもここにいてシャーリーン、あなたがそこにいてくれることが一番嬉しいの。毎日、これだけは思い返すのよ。シャーリーン、神様がもしいるのだとしたらあなたのように優しい女友達でいてほしいわ。シャーリーン。ね、シャーリーン。