陽だまりの子

Child In The Sun

074. 雨は降っているか?

多少の雨に僕は傘は差さない。傘を広げるのを面倒がるほど無精ではないけど、何だか癪じゃないか。雨ごときに怯えているようでさ。そりゃ、僕だって雨に濡れて風邪を引いたり肺炎になったりするのは嫌だよ。でも、これぐらいの雨なら風邪なんて引きっこないってわかってるぐらいの微々たる雨粒にわざわざ傘を広げるほど僕は臆病じゃないんだ。

車をご覧よ。どんな雨風の中だって裸で走っているだろう。え、車は違うだろうって? そりゃそうだ。車は鉄の皮膚で、僕は柔らかい肌色の皮膚だからね。でも、水を通さないのは同じだろう。電信柱をご覧よ。風が吹いたって、黒雲の下だって、動じずにじっと立っているじゃないか。僕だってこの二本の足で(まあ、逞しいとは言わないさ)、地面にしっかりと立っているんだ。人間だからって雨の中を自然にいられないとは限らないさ。だから、僕は多少の雨では傘は差さないんだ。しっとりと雨に濡れた僕の髪をご覧よ。柔らかくて冷たくて、電灯の下では特別輝いて、どんな宝石だってかなわないさ。僕の指をご覧よ。冷え切って固まって、まるで大理石のようだろう。人間は雨を享けてこうも変われるんだ。風邪や肺炎に臆病になって、この変身を堪能できない人間は損さ。

でも、電線の下を通るのだけはやめておこう。電線から落ちてくる雨粒は特別大きいからね。ただ濡れるというだけじゃなく、誰かにはたかれたような心持になるんだ。「傘を差しなさい」ってね。