陽だまりの子

Child In The Sun

068. 天使と悪魔

ニームだ。俺の名前はニームだ。覚えたか?覚えたならそこに掛けなよ。あんたも俺の話が聞きたいんだろう。今まで何人も俺の話を聞きたいとこの独房にやってきた。だが、あんたは違うようだね。どうしたんだい?

俺は二人の人間を殺した殺人者だ。一人しか殺さないつもりだったんだ。しかし、一人目の首をロープで絞めているところを二人目に見られてね……。金切り声を上げたものだから、ついかっとなって二人目の首も絞めた。二人目は完全には死んでいなかった。しばらく生きていて、この春に植物状態のまま死んだよ。俺はこの夏に死刑判決を受けた。

ああ、「死刑になるとわかっていて犯行に走った」理由が聞きたいんだな。どこから話せばいい?自分の憎しみの対価が自分の命を持ってしか購えないとしたら、あんたはどうする?俺は自分の命を差し出したのさ。俺の心を占める憎しみを跡形なく消し去るためには、俺はこの憎しみを抑えるだけでは足りぬ。俺はこの憎しみの根源となっている人間を殺してしまわなければならない。憎しみはすぐには消えないかもしれない。だが、その憎しみの元を断てば、泉の涸れた小川のように、いつか流れは途絶え、憎しみの池は干上がるだろう。俺の心の憎しみをきれいに消し去るにはこれしかない。そう、俺は決心したのさ。あいつを殺してから死刑が執行されるまで時間はたっぷりあるだろう。死刑になるその瞬間までに憎しみの池が干上がると俺は踏んだのさ。そして人を殺し、死刑判決を受けた。俺の行動に誰も一貫性を見出せないというが、それは違う。確かに二人目を殺したことは当初の目的から逸脱した行為だった。しかし、俺は自分の心のために、ただそれだけのために行動したんだ。まあ、判事も弁護士も、被害者の家族も理解しなかったがね……。

死刑判決が決まるまでに実に7年の時間が要った。この国の司法制度はたいそう気が長いんだな……。初めに拘置所に入れられたとき、俺の心を占めていたのは人間を二人殺したという未知の体験による興奮だった。一人目を殺したとき、恐ろしいほどに心は静かだった。心に憎しみが満ちて、波も立たないほどしっかり瓶詰めにされていたんだ。その瓶はずっしり重かった。しかし、二人目を殺したときに、その瓶は砕けてしまった。俺の心はすっかり砕けてしまったんだ。何の関わりもない人間を、ただその驚きがゆえに、神に成り代わったかのように、俺の心もちひとつで殺してしまった。首を絞めて絞めて、二人目が動かなくなるまで俺は無我夢中で首を絞めた。そして俺の指の下にある首の皮に脈拍が感じられなくなり、二人目が身じろぎひとつしなくなったとき、憎しみが水滴のように飛び散って俺の体のそこかしこに染み付いた。憎しみは血管を締め付ける。俺は一気に苦しくなった。精神科の医者が呼ばれたのは、そのときだよ。心の瓶が割れて、深い憎しみの池の底に沈んでいた不安や懊悩が現れてきた。俺は始終興奮し、初めて見た不安や懊悩に怯えて暮らす羽目になった。あいつさえ殺せば俺の心はいつか静かになると思っていたのに、とんだ見当違いだ。俺は人間を二人殺して、余計苦しくなった。

一人目の人間の死は無駄になった。二人目の人間の死は俺を徒に苦しめただけだった。そして、俺は自分に死刑判決が下ったことを知る。三人目が死ぬわけだよ……。死ぬ順番が少し狂えば、この命は三つとも助けられたはずだ。この命はすっかり無駄になってしまったのだ。今、俺にわずかに残った心を占めているのは、深い後悔の念だけだ。

違う、アイムじゃない。俺の名前はニームだ。覚えたか?アイムレス、人殺しのニームだよ。

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