陽だまりの子

Child In The Sun

065. ネオン

春の始めの雨上がりの宵闇を二人の子供が渡ってゆく。弾む足音、群雲の下、二人の子供が踵を鳴らして走りゆく。
「ねえ見た。今日の看板。すてきだったわねぇ」
「見た見た。緑と赤の電球がとってもすてき。電球は断然赤よね、黄色はどこにでもあるもの」
「青い電球は見ないわね。皆が青って言うのは私には緑にしか見えないもの」
二人の影は街灯の下、水溜りの上に映っては消え、風とともに街に広がる。
「ネオンの中に」
「ネオンの中に」
「私の名前があれば」
「私とあなたの名前があれば」
「私たちはきっと幸せ」
子供たちの夢は今通り過ぎた大通りの劇場に俳優となって立つことだ。この界隈の子供は皆枕に同じ夢を見る。繰り返される野蛮なゴシップ、昼間の酷な労働も子供の夢を薄められない。
「万雷の拍手」
「カーテンコール」
「ショウの幕が下りても」
「ネオンは残る」
「ネオンの中に」
「ネオンの中に」
「私とあなたの名前があれば」
子供たちの理想と夢の純粋な化合物、それがネオン。二人は大通りの劇場の上に二人の名前がそろって並ぶ日を夢見ている。
「ネオンの光に」
「スージーとデイジー」
「二人の名前が輝けば」
「二人は幸せ」
「お芝居の始まり」
身にまとうものがいくら襤褸でも、それは今限りのこと。子供たちは明日は太陽を今日は雨を、今この瞬間は月の光を身にまとい、うつつの宵闇を渡ってゆく。弾む足音、群雲の下、ネオンの中に輝くのは二人の夢と信じている。無邪気な夢の結晶は、七色に輝き宵闇を照らすのだ。