陽だまりの子

Child In The Sun

064. 橋

 毎日、私は橋を渡って通勤している。通勤に使っている列車が毎日鉄橋を渡るのだ。行きと帰りの都合二回、私は橋を渡っている。私はいつも、行きは東側寄りに帰りは西側寄りに乗るようにしている。川が西から東にまっすぐに流れ、その上を流れに直角に橋が渡っているので、自分が東側寄りに乗ればまだ昇ったばかりの朝日を、西側寄りに乗れば沈みかけの夕日を眺めることができるからだ。一日のうち、陽光を浴びる時間は貴重だ。太陽の光を浴びなければ、人間は自分の体内で必要な栄養素を合成することができないらしい。植物と同じだ。生きて活動していくために太陽を浴びる。
 私は毎日、地下の書庫にこもって仕事をしている。本は日に当たると見るも無残に色褪せてしまうからだ。本のためだけに調整された青白い光の下で、私は毎日息を潜めて生活している。あそこの光は体に悪い。いいや、体に悪いのではない。0も1もない。何も体にもたらさないのだ。人間に無害であっても、それはけして有効ではない。
 だから、私にとって太陽の光を浴びる通勤の時間は何より貴重な時間だ。橋がちょうど南北に走っていることが何より素敵だ。あの橋を渡る列車に乗る人間すべてが、毎日太陽のシャワーを浴びる。植物が水を得てその枝葉をみずみずしく茂らすように、人間は太陽の光を浴びてその知性を輝かす。