陽だまりの子

Child In The Sun

061. 逃げ回る

海底には人知らぬ三つの国があった。鉱物の資源に恵まれたエアノリクス、海中にありながら真水が湧き出で草木生い茂る農業の国テンビクノレア、一番海面に近いため明るい陽光のもと海中を走るヨットの帆が眩しいオランディア。三つの国は三つの大陸棚の中にあり、火山活動によって地上との空気の循環があるため、人間が生存できる環境にある。この三つの国は知られざる海底の国として独自の立法機関を有し、政治体制を敷いていた。三つの国の住民は、長く海底に暮らしていたために肺とは別に鰓でも呼吸できるようになり、手の指の間の水かきは大きく発達した。耳は水中の超音波を聞き分けることができ、言葉のほかに鳴声で魚や両生類とある程度の意思疎通を図ることができた。

三つの国は近接していたので交流もあり、それぞれの国の特産品の交易も行っていた。しかし、小さな海底の世界のこと、限られた利権をめぐって戦争も起きた。度々の戦争に三つの国は疲弊し、国民の数は減り、遂には二つの国が滅びてしまった。残った国はオランディアただひとつ。オランディアはエアノリクスの鉱物資源と、テンビクノレアの農産物資源を利用して隆盛を極めた。

しかし、オランディアの繁栄にも終わりが来る。地殻の大変動により、オランディアの大地は粉砕され、国民は散り散りとなった。ただ、水中で暮らすに適したその体で地上で暮らすのは容易くなく、多くの国民がまた死に絶えた。戦争で殺し合い、大地の変動で住む場所を失い、いまや海底の民に安息の地はない。多くは泣き叫びながら海流に乗って海を流浪するうちに、ますますその姿は少なくなっていった。現在、オランディアのわずかな生き残りは人魚と呼ばれ、今でも御伽噺のうちにその姿を見受けられる。また地上で暮らすのに体の組織が変化し、最後には地上の人間として陸に上がる者もいた。今、陸の人間で特に水かきの大きい人間や、高い声の出る人間は、水中から上がったオランディアの民の末裔である。

水中に未だ暮らす者も、地上で暮らす新しい地上の民も、彼らはまた地殻変動により水中に次のオランディアが生まれると信じて日を送っている。そこではもう戦争の起こらぬように、戦争により自らの大地を失わぬように、そして一度生まれた大地が彼らを見捨てないように、祈りの声を上げて次々に七つの海を渡っているのだ。

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