陽だまりの子

Child In The Sun

060. アスファルト

パタパタという機械音が窓の向こうから響いてくる。ヘリコプターだろうか、明るく閃く天井。今日も眠れないまま、私は天井を見上げている。意志の力で眠るのにも、もう厭きた。眠れないのなら、そのまま起きていよう。暗い部屋、白い天井、傾いたポスターフレーム。この部屋にも厭きた。

パタパタという機械音が次第に大きくなる。ヘリコプターがこんな深夜に……。音は次第に大きくなる。そして轟音となって、ガラスがビリビリ震え始めた。机の上のメンタームの缶が転がり落ちる。ベッドのフレームまでかたかた音を立て始めた。すわや地震かと、私もベッドから降りた。揺れる天井、止まない轟音。カーテンを開けてそっと外を見る。

そこは戦場だった。たくさんの軍用ヘリコプターがサーチライトで道を逃げ惑う人々を一人残らず見つけ出して、蟻を潰すように殺していく。機銃が回転して、弾丸が発射される様子が手に取るように見える。そうだ、私はそのヘリの隣で同じ高さで、私は殺される対象ではないのか。自分の部屋の向かいのビルは爆撃されたのか、激しく火を吹いて今崩れ落ちた。轟音に次ぐ轟音で、耳が聴こえなくなる。アスファルトがひび割れ、割れた水道管から水が噴き出している。転倒する自動販売機、落ちた看板。信号機が斜めに傾いている。私の部屋からはそれが手に取るように見える。同じ高さにいるヘリコプターのパイロットが、機銃の発射ボタンを押す様まではっきりと見える。私は殺されないのか、カーテンを握る手がじっとりと汗ばむ。

ドンドンと太鼓のような音で部屋のドアを叩く音がする。「助けてくれ」「入れてくれ」「この部屋に入れば殺されないんだ」たくさんの人の声。この部屋にはきっと入りきらないほどの多くの人の声。私は跳ぶように窓の傍から離れると、玄関に走った。部屋のドアが揺れている。轟音のせいではない。ドアを叩く拳の音。私は咄嗟に鍵を確かめた。鍵は下りている。チェーンロックもかかっている。大丈夫だ、大丈夫。私は両手を合わせて祈った。「生き残れますように」「私は殺されませんように」一体、何から生き残るのか?誰に殺されることを恐れるのか?ドアの外の声は大きくなる。窓の外の轟音は止まない。絶叫と、熱。ジュッと何かが焦げる音がする。暗い玄関。私は祈った。「まだ死にたくない!」


その声で目が覚めた。ひどい悪夢だ……。火照った頬を確かめる両手は、脂汗でじっとり濡れている。額は冷え切って氷のようだ。寒い。歯の根が合わず、かちかちと音を立てる。冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターをペットボトルから一気に飲んだ。1リットル飲んだところで、目が冴えてきた。そうだ、夢じゃない。まだあのヘリの音は聴こえてくる。私の手からペットボトルが滑り落ちた。

さっとカーテンを開けると、目の前の道路で水道工事をやっていた。パタパタという機械音は、アスファルトを打ち固める機械の音。水蒸気は、熱したアスファルトを冷やすために撒く水が一気に蒸発して生まれたものだった。「歩行者道路」と点滅する看板。ジュッと音を立てて水が蒸発する。自動販売機も、信号も、向かいのビルも、煌々と電灯がともっていた。車道に張り出して設置された臨時の歩道が、車列のヘッドライトの中、川の中州のように黒く浮かび上がっていた。

広告を非表示にする