陽だまりの子

Child In The Sun

057. 白と黒

コンロの前で鍋の中の煮物の煮える様子をじっと見詰めている。醤油と味醂の匂いと暖かな湯気で、自分の髪の先がじわじわ熱くなってくる。換気扇の音の向こうに外の木枯らしの音が聴こえてくる。明日は雪になるそうだ。雪が降れば暖かくなる。

雪が降れば何かが許されるような気がする。雪が降ると人が優しくなるからだろうか。雪が降って電車が止まって遅刻しても雪のせいだって許してくれるし、道で滑って転んでも雪のせいだからって誰も笑わないし。そうだ、雪の降る日には誰からも怒られたことがないからだ。そう、誰からも怒られないなら、誰からも私が悲しみと憎しみを与えられないのなら、雪が降るといい。たくさんたくさん降るといい。何もかも覆い隠して、人の心の埋められない亀裂までふんわり隠してしまうといい。綿で包んだ針まで人間が気づくにはだいぶ時間がかかるのだ。

鍋の中の芋を菜箸で突っついてつまんでみた。芯まで煮えているが、まだ味は染みていない。煮崩れが心配で鍋を揺すった。鍋の底はまだ焦げ付いていなかった。

「ゆきふらばわがつみがゆるされむ」私の汚辱はどれほど焦げ付いていても、この雪が覆い隠してくれるのだろうか。白い雪がいくら私の上に降ったところで私の濁った心は濾過されない。重く湿った雲が私の世界に垂れ込めて、心の中はいつも積乱雲の中のように気流が渦巻いている。

芋をよそう小鉢を探しながら、外の木枯らしの音に気を取られている。ここは暖かいのに、まだ寒い気がする。

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