陽だまりの子

Child In The Sun

056. 待ち伏せ

 窓の外の低く赤い月を見て、ふと朝から干したままの洗濯物を取り込もうとベランダに出ると、街灯の下に一人の男が立っているのが目に入る。自動販売機の前を行ったり来たり、その中の缶コーヒーやジュースの品名はもう覚えてしまっているに違いない。目の前のマンションは茶色いタイル、七階建てで、その隣のマンションは白いタイルだ。彼の恋人はどちらの部屋に住むのだろうか。
「こんな時間に」
そう言って僕は壁の時計を見る。時刻は午前二時。こんな時間まで待つ男、こんな時間まで眠れずにいる自分、お互いどれほどあの子に惚れているのか。
 僕は着信のない携帯をもう一度確かめて、布団に入る。好きだ、愛している。そう呟いてみる。
「家に着いたら電話するから」
そう言って彼女は邪険に電話を切った。それから五時間。まだ布団の中でもう少し起きていようとする自分がいる。冷えた布団、彼女がいれば。
 耳を澄ませば、窓の外の彼の足音が聞こえてくる。お互い、本当は、恋をしている自分が、一番好きなのだ。そうだろう、だってこうしてじっと待っているのが案外気持ちいい。悪くない。
 着信のない携帯は、握った僕の手の体温で薄く温まっている。