陽だまりの子

Child In The Sun

042. 探索

 私の右手、親指の付け根に痣がある。いつできたのだろう。覚えていない。その上にある傷痕は……、そうだ。カバンのジッパーに挟んでできた傷だ。深くまで皮が擦り剥け、なかなか治らなかった。だが、その下にある今の痣は何だろう。
 寝る前に火を点けたキャンドルの光で浮かび上がる、自分の右手の痣に気を取られ、今の今、午前4時まで私は枕の上で目を閉じていない。
 右手に傷ができると、私には必ず良くないことが起こる。ジッパーの傷のときはバスのドアに当たって転んだ。そのとき、バックバンドのパンプスのヒールを折った。小さい頃、友達と手を繋いだまま転び、右の鎖骨を折った。そのときは藪医者のせいで、鎖骨を曲がったままにされた。今、鎖骨はくっついているが曲がったままで、私の肩幅は右と左で少しずつ違う。そうした右手の傷にまつわる不幸を数えたてているうちに、いつのまにか朝が近づいていたのだ。
 私は右手に傷ができると不幸になる。鎖骨の骨折ならともかく、もっと深く右手を傷つけてしまったらどうなるのだろう。肉を抉るような傷を負えば、私は体の別の部分の肉を失うのではないだろうか。指を失えば、私は顔のどこかの部位を失うのではないだろうか。右手を失えば、私はもう生きてはいないのではないだろうか。私はキャンドルの明かりの中、手探りで自分の傷を探していた。
 気づけば夜はすっかり明けきっていた。日が昇って今日が始まる。私の体は、冷え切っている。右手は、まだ温かい。