カラス
光なく影なく人の声もなく
耳に届くは風と波の激しくも懐かしい声
筆の跡も生々しい空気の流れと
頑なにそれを溶かそうと景色にむしゃぶりつく雨粒
名前も知らないこの土地で
私は行く場所も知らないのに
雨風にされるがまま茫然として
だが安心しているのはなぜだろう
闇がアスファルトに身を横たえ
ゆっくり私を差し招く
誰もいないこの道を
誰かが敷いたこの道を
ただお前一人のものにしてやろう
潮風にざらつく肌と
濡れて頬に貼りつく黒髪
名前も知らないこの土地で
行く場所も知らないのに
私はこの闇に選ばれた
誰もいないこの道が
誰も私を追わないこの道が
ただ私一人のものになる
光なく影なく人の声なく
青ざめた額でただ一人の夜
闇がアスファルトに身を横たえ
ゆっくり私を差し招く