高層ビルの最上階に
誰も忘れた鐘楼がある
朝な夕なに鐘は鳴るが
人にその音は響かぬ
鐘はもう人のものではないので
隣の教会の中では
頭に霜を置いた牧師が
しきたりに則って婚礼を進める
今、私の前で結婚するのは
雨粒と霧
朝靄と風
ひとところにはおられぬ者たちが
この鐘楼の中では
自然のままに夫婦となる
立ち上る朝日に鐘楼は照らされ
人の目にもその姿がかいま見える
人はそれを蜃気楼と幻と言い
誰も鐘楼に上がろうとはしない
だが鐘楼はそこにあるのだ
朝靄と風
雨粒と霧に守られて
その間を漂うすべての者のために
鐘は鳴る
空と人の間の僅かな隙間に